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Posted by: ifcayouth Category: アメリカと日本の児童福祉のしくみ Comments: 0 Post Date: 8月 7, 2019

ユウ・サンウォン  データから見る日本のフォスターケア 

(これは「子どもの権利シンポジウム」でのスピーチ原稿をもとにしたブログです。)

みなさんこんにちは。ユウ・サンウォンです。私の発表では、養護施設にいる子どもたちの人生に関わってくる数字をもとに、私の実際の経験も踏まえながら、フォスターケアの実情に迫りたいと思う。私自身はずっと養護施設にいたので、里親家庭については最小限しかお話をすることが出来ないが、ご容赦いただきたい。

1.施設の大きさ・・・施設って、どんなところ?

ここに親と暮らせなくなった一人の子どもがいると想定してほしい。彼或いは彼女はまず児童相談所に保護される。だが、いつまでもそこにいることはできない。彼は、一時保護所の先生に言われるがまま、「ヨウゴシセツ」という場所に連れて行かれる。でも、ヨウゴシセツって一体どんなところだろう?(ここで、数字の説明)

養護施設は大舎制が大半を占める。具体的には、20人以上が居住する。私がいたところは、定員が60人以上もあった。下は3歳児から上は18歳まで老若男女(?)入り乱れての生活。規模が大きい分、衣食住には困らないが、それぞれ全く異なる問題を持った子どもたちが一緒に暮らすのは至難の業。毎日が林間学校のようで楽しくはあるが、小さい子供の喧嘩・イジメは日常茶飯事、門限を守らない中学生や脱走する高校生も多発。楽しいばかりではなく、毎日誰かが年齢を問わず涙を流している(○○ちゃんがおもちゃをとった、××君に殴られた、同じ施設にいる彼女に振られた、etc etc…)。プライバシーも確保されているとは言い難い。

 

2.平均委託年数・・・どれくらいの間、施設にいればいいの?

目出度く施設に入ったはいいが、どれくらいの間ここで暮らせばいいのだろう?日本では平均委託年数がおよそ7年。私自身も6年半施設にいた。登壇者たちの中にもいるが、生まれてから高校卒業までずっと施設で暮らさざるを得ない子もいる。私が初めて出会ったときは毎晩職員に添い寝をねだる幼稚園児だった子が、今では中学生になって高校受験を意識しだすまで成長している。。これって、果たして良いことなのだろうか・・・。

 

3.就職・進学率・・・施設を出た後、どうしようかな?

施設にいる子も中学生になれば今後の進路を考えるようになる。中学卒業時の進学率は99%に近いが、私の実感とはだいぶ違う。私のいた施設では私立高校への進学が認められておらず、塾に通うことも出来なかった(学習ボランティアはいるが限界がある)。都立高校の受験に失敗すればもう施設にいつづけることは出来ない。私自身、難関校にチャレンジしたかったものの、施設を追い出されるのが嫌だったので確実に合格できる学校を受験した。結局、中学卒業後、進学せずに社会に出る子たちが一定数いたし、目出度く進学できても中退の危機にさらされる者がたくさんいた。進路が確定していない未成年を社会に放り出すのはいかがなものか。

 

また、高校を無事に卒業できても、その後の道のりは険しい。約7割の人が就職を選び、大学・専門学校を合わせた進学率は3割にも満たない。その上、進学者と正社員に就職できたものはまとまった支度金が支給されるが、非正規雇用・進路未定の者にはそれが一切ない。

 

私自身、本当は大学に進みたかったが、経済力と安定的なサポートが見込めない状況で進学に踏み切る勇気がなかった。だが、措置解除を迎えるとき、そもそも我々には安心・安全な選択肢が用意されていると言えるだろうか?

 

4.生活保護/まとめ・・・施設を出たけど、苦しいよ・・・。

たとえ自分の選んだ道に進んだとしても、障害は至る所にある。学業と仕事の板挟みになり、ストレスで倒れてしまう仲間がいた。虫歯になったにもかかわらず、お金がないから歯医者にも行けずに痛みに苦しむ仲間がいた。深夜まで及ぶ残業に苦しみながら、寝る間もなく早朝にまた出かけていく仲間がいた。だが、どうにかやりくりしながら生活できればまだいい。そもそも進学・安定した職という選択肢自体がない人もたくさんいるのだ。若さでカバーできることにも限界がある。最終的には生活保護に辿り着く当事者が一定数いるだろう。日本の総人口の中で生活保護の受給率は1.6%だが※、東京・大阪地域でフォスターユースを対象にした調査によると、受給率は12.1%。ほぼ10倍。

 

児童福祉の中で生きてきた者が、社会に出た後も児童福祉の中にいた時以上の苦しみを受けながら生きてゆく。安全・安心な環境から零れ落ちたものは生活保護に辿り着き、それさえも受けられない者は社会の闇に沈んでゆく。自立を迎える者がよりフェアなスタートを切れるような仕組みを作ることで、多くの若者の可能性が広がるのではないだろうか。

 

こんな社会は何かが間違っている。だからこそ、自分たち自身の幸せの為に、そして一人でも多く仲間を救うために、立ち上がれる者は声を上げていかなければならないと思う。

以上

 

※出典:今野晴貴(2013)『生活保護―知られざる恐怖の現場』ちくま新書 p.25 図表3

 

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