山本法子 スピーチ 2017年夏
山本法子
私が児童養護施設に入所した頃は、大学へ進学するよりも就職する方が多かったです。
なぜ進学をしないかというと「学力が足りない」「授業料が払えない」「進学するよりも働いてお金を稼ぎたい」と言って諦めてしまう人がほとんどでした。みんな中学生の頃は、「美容師になりたい」「スポーツ選手になりたい」など、目を輝かせていたのに…。
しかし、そんな中でも進学を諦めず、高校へ通い、勉強や部活を頑張りながらアルバイトで進学のためのお金を貯めている子が一人いました。その人の頑張っている姿を見たからこそ、私も進学を諦めず今があるのだと思います。
私は、小学生の頃から約8年間、児童養護施設にいた経緯がとても大きかったです。入所したばかりの頃は、年上の怖い人に囲まれ、毎日怯えるように日々を過ごしていましたが、同年代と一緒に学校へ通ったり、宿題をしたり、おやつを食べたり遊んだりして、徐々に楽しくなり安心した生活が送れるようになりました。普通だったら、親の元で暮らせることが子どもにとって安心できる場所だと思いますが、私は親元で暮らすより、施設で暮らす方が幸せで安心できる場所だと確信しました。
時々、学校の友達が家族のことを話していることを聞いて、寂しい気持ちになりました。友達はテストの点が悪いと親に怒られたりするのに、私は施設の職員に怒られることはなかった。参観日の時に、若い担当の職員が来ると、明らかに友達の親と年代が違うため、恥ずかしかったりしました。普通の家庭との違いを感じた時に、施設で暮らしている自分がすごく嫌になりました。
ある時、どんなタイミングだったが覚えていませんが、「自分が施設の職員だったら」と思うようになりました。私だったらもっと入所している子ども達の辛い気持ちや寂しい気持ちに寄り添って、共感してあげられるかもしれないと強く思いました。
施設の職員に、どうやってこの仕事に就けるのか聞くと、保育士の資格があればと知り、そのためには進学しなければならないと知りました。でも進学するための費用を援助してくれる親はいないし、18歳を過ぎれば施設を出なければならない、もし一人暮らしをするならアパートの保証人はどうすればいいのか。など、進学するための壁はとても大きく感じました。
しかし、施設の職員に相談すると、私の知らなかったことがたくさんありました。奨学金制度、施設で暮らす子ども対象の学費免除の支援があることなど、たくさんのサポートがあることを知りました。そのおかげで、今の私があると思います。私が短期大学に進学できたのは、サポートしてくださった方や、何よりここまで諦めずに頑張った自分の強い気持ちだと思います。このような話を何も知らない大人に話すと、「よく頑張ったね」「えらいね、私の子どもにも見習ってほしい」と褒めてくれます。もちろん言っていることは間違っているとは思っていません。でも「私の子どもに見習ってほしい」という言葉はすごく引っ掛かりました。なぜなら、その子にとって何かあれば、助けてくれる親がいて、何もしなくても安心した生活の場がある。褒められることは嬉しいけど、その何気ない言葉で、自分は普通じゃないのだと壁を感じてしまうことがあることも事実です。
進学するにあたって大変に思うこともありました。それは、18歳を過ぎると施設を出なくてはならない、または措置延長をして自立できる準備が整うまで施設で暮らす、という選択があります。私は退所しても引き取ってくれる親がいないため、措置延長を選択しました。しかし措置延長をしたからといって、全てが安定した暮らしになるわけではありません。特にお金の面で大変です。高校生まで出ていたお小遣いももらえなくなるし、バイトをして自分で稼がなければなりません。今までコツコツ貯めていた貯金が少しずつ減っていくことにとても不安を感じていました。
現在は、自立支援制度があり、短期大学を卒業した後5年間保育士として働くことを条件に、家賃支援費と生活支援費の給付金を活用し、アルバイト代を貯金して上手くやりくりしながら何とか生活をしています。施設で暮らしていた時は一人の空間がなかったので、戸惑いながらも、満喫しています。これからは就職活動に向けて、自分で描いていた仕事に就けるよう頑張っていきます。
時々、施設に遊びに行くと「おかえり」と言ってもらえることに安心します。そして入所している高校生が未来の夢について話をしてくれることはすごく嬉しいです。諦めなければ夢は叶うことを伝えていければと思います。
そして最後に、社会的養護の中で暮らしていた経験者として、措置延長を含めた安心した生活の場のが確保できる制度を整えてほしいと思っています。特にお金の面での不安がなく、勉強に専念できる場があることが重要だと思います。
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