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Posted by: ifcayouth Category: アメリカと日本の児童福祉のしくみ Comments: 0 Post Date: 6月 2, 2017

アメリカのフォスターユースと大学進学事情

 ダニエル・ルゴ

皆さん、こんにちは。私の名前はダニエル・ルゴです。今日は、アメリカのフォスターユース(社会的養護の当時者)と大学教育について、お話したいと思います。ここに立って皆さんにお話しできることが、すでにワクワクしているという状態を超えています。私の講義が、皆さんに役立つことを願っています。

まず、自己紹介をさせて下さい。さきほども言ったように、私の名前はダニエル・ルゴ。現在、シアトルにあるワシントン大学の学生です。政治学を専攻していて、将来、政治家になることを希望しています。趣味はいろいろありますが、お芝居とパフォーミング・アーツが好きです。ビデオゲームやハイキングも好きですが、日本のポケモンの世界に惹かれています。ポケモン、ゲットだぜ! フォスターケアでの経験は、今年で3年、あと2週間ぐらいで、4年目に突入します。IFCAには今年になってから参加しました。

それでは、なぜ、私が大学に進学したかったのか。自分の将来をよりよいものにするため、そして、大学教育で得るスキルや知識を社会貢献のために役立てたいと思ったからです。そうすれば、私たちが毎日直面する問題を解決することができる。

そして、自分の家族のロールモデル(模範的な存在)になりたかった。私の家族には大学に行った人がいません。親戚の中に一人だけ、大学を卒業した人がいます。私にとって、大学進学は、どんな過去があろうとも、そして不可能に見えることでも、やろうと思ったらなんでもできる、ということを家族や兄弟に示す、大きな第一歩だったといえます。私のような境遇に今ある人たちにも、模範になれたら、と感じました。

でも、私がどうやって大学に進むことができたのでしょうか。それは、簡単なことではありませんでしたが、サポートがあったために、大学生になることができたのです。大学進学への下準備、授業料の資金の確保など、様々な支援がありました。大学の構内にも、自分がベスト・スチューデントになれるようなリソースがありました。

私が社会的養護の当事者になった時点で、一番最初に出会ったリソースは、ユースネットという団体でした。ユースネットは若者や家族にサービスを提供する社会的な組織です。私の場合は、ユースネットが大人へと自立するための支援をしてくれました。

例えば、私のユースネットのスポンサーは税金の申告の仕方を教えてくれたし、レジュメの書き方の手ほどきもしてくれました。大学の入学願書を書くのも手伝ってくれました。このことは、自分にとって計り知れないくらい重要でした。私は高校3年生の時にフォスターケアに身を置くことになりました。その時は、大学進学するなんて夢にも思わなかった。私の将来の見通しは、暗いものでした。

だけれども、私のスポンサーは、それを乗り越えるために、大学のキャンパス巡りに連れて行ってくれたのです。私は、大学が与えてくれるであろう人生のチャンスが見えるようになり、世界が明るくなったような気がしました。どうやったら大学に入れるのかと尋ねると、ユースネットは援助の手を差し伸べてくれました。躊躇すること無く、ワシントン大学の願書の記入と提出を手伝ってくれました。その他にも、大学進学のための奨学金のリソースを与えてくれたし、教科書など、学校で必要な教材を買うのに私には資金がどうしても必要だったので、そのリソースも連邦政府からの資金でまかなうことができることを教えてくれました。

こうした様々な大学教育のリソースの背景には、1999年に樹立した米国の連邦法「フォスターケア・インデペンデンス法案」があります。この法案が可決されたことにより、予算が拡張され、州政府は、ケアを離れるフォスターユースの自立支援のための独自のプログラムを提供することができるようになったのです。ユースネットもこの法案がもたらした予算で成り立っているプログラムです。

私の使った他のリソースは、DSHS と呼ばれる(Department of Social and Health Services)州の
社会保健局です。DSHS の下に児童保護局があります。ですから、私のソーシャルワーカーはDSHSの職員です。DSHSは、自立と長期の支援、メンタルヘルス、そして経済的な支援を与えてくれました。

私のソーシャルワーカーは健康管理のため健康診断のアポイントメントを取ったり、フォスターケアに入る前に経験したトラウマと立ち向かうために、メンタルヘルスのサービスを探してくれました。大学の勉強に集中できるように、仕事を長時間しなくてすむように、州が家賃を支払ってくれています。このような援助無しに、大学進学は無理でした。

ワシントン大学には、チャンピオンズ・プログラムというフォスターユースだけのための特別な支援サービスがあります。チャンピオンズ・プログラムは、フォスターケアを経験した学生たちに、全人的、総合的な支援をしています。ワシントン大学の構内に、ユースのための支援ネットワークがある、ということです。フォスターユースの仲間同士が一緒にいろいろな活動をするので、大学生活の中で孤独になることを防げます。

このプログラムのディレクターが、いろいろなリソースに私たちをつなげて行ってくれます。例えば、私がIFCAのことを知ったのは、チャンピオンズ・プログラムを通してでした。このプログラムがなければ、私は今、ここにいて、児童福祉の改善を目指す立場をとっていなかったでしょう。チャンピオンズ・プログラムは、社会的養護の当事者の可能性を広げ、大学課程で成功をおさめる土台になっています。

次に、フォスターユースだけに与えられる特別な奨学金があります。私は、パスポート・トゥー・カレッジという奨学金と(エデュケーション・アンド・トレイニング・バウチャー)ETVを受けています。施設や里親家庭出身のフォスターユースたちだけが受けられる奨学金です。私は残念ながら受けられなかったのですが、州知事がフォスターユースたちに与えている奨学金もあります。毎年40人から50人の全日制の学生が、通う大学にもよりますが、毎年、2千ドルから4千ドルを5年間まで受け取ることができます。奨学金を受け続けるには、一定の成績を保つ必要があります。

こういった奨学金は、たいへん重要です。私は、いろいろなアングルからの支援なしには、現在のように、将来の成功に向かって勉学を続けることはできないのです。

これだけたくさんの支援プログラムがあるのだから、アメリカは、フォスターユースにとって、学業成就するのに、このうえなくリソースのととのった国なのでは、と考えている人が多いと思います。ですが、残念なことに、実はそうではないのです。

このスライドを見るとわかるように、措置場所の移動などが理由で、フォスターユースはふつうの高校生にくらべて、15パーセントも中退率が高いです。24パーセントのフォスターユースは、何らかの障害をもっています。全米の52パーセントのフォスターユースは高校のランキングで、一番下から30パーセントの学校に通っています。高校を卒業するフォスターユースは50パーセントしかいません。大学進学するユースはたったの10パーセント、そのうち、卒業するのは3パーセントにすぎません。これは驚くべきことです。なぜこのような結果が出ているのか。

その理由のひとつとしては、必要なサポートを受けていないユースがいるということです。米国では10秒に一件の割合で虐待通告があります。支援の必要な子どもたちが多くいるのに、その子どもたちに援助の手が差し伸べられていない可能性があります。私の個人的な経験ですが、私のソーシャルワーカーは10人のフォスターユースをかかえていました。これも驚くべきことです。すべてのユースのニーズをどのように均等に満たすのでしょうか。需要が多い中で、それに対する援助が足りていない、ということを考えると、悲しいことに、ひとり立ちして成功するためのサポートを十分に受けられず、脱落して行くユースもでてきてしまいます。ユースたちがほんとうの意味で成功するには、もっと支援が必要なのです。

そして、それは措置延長をすることで実現できると思います。日本では18才で措置解除になった後、20才まで成人しません。そのギャップのことを、IFCAでは“空白の2年間”と呼んでいます。この2年の間、携帯電話の契約や、保証人がいないために、アパートを借りられないなどの事態が生じます。リソースもなくほうりだされた若者たちは、行き詰まってしまいます。日本には、措置延長が必要だと考えます。

アメリカでは、エクステンデッド・ケアといって、21才までフォスターユースとしてサービスを受け続ける制度があります。私もそのサービスを受けているので、20才になったのに、まだ、担当のソーシャルワーカーがいます。私はアパートに住んでいますが、里親が受けるのと同じ額の手当金を私が月々受け取ることができます。この制度のおかげで、私は大学に通うことができ、社会に貢献する市民として成功する可能性を与えられているのです。

アメリカのシステムは完璧ではないし、改善すべき点がたくさんあります。そのことを今日、お話しできたと思っています。IFCAは、この“空白の2年間”はユースの人権に関わる問題だと考えています。サービスが無いことで道を塞がれているユースたちにリソースを与えてゆかねばならないと思います。その目標に向って進む運動のために何かをしたい、と私は考えています。今日は私の話しに耳を傾けてくれて、感謝しています。
ありがとう。

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